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朝鮮半島非核化と東アジア情勢その②

東北福祉大学:講義録ーその②
朝鮮半島非核化と東アジア情勢
東北福祉大学客員教授 シンクタンク安保研理事長
浅野勝人

もともと国家間で見解が根本的に異なり、折り合いがつかない場合、解決方法は二つしかありません。戦争で結着をつけるか、話し合いで妥協するか。この道理から今回のケースを考察すると、アメリカと北朝鮮、双方とも本心は戦闘は避けたいと思っているのですから、交渉のテーブルに着くのは必然の結果です。
アメリカ・ミドルベリー大学教授のジェフリー・ルイス東アジア研究主幹も「交渉が事態打開の唯一の方策」と述べて、私と同様、早い段階から「米・朝対話」を予測していました。
経済制裁、特に石油禁輸の締め付けに、内心、根を挙げている北朝鮮が話し合いを選択して「金日成(キムイルソン)金正日(ジョンイル)、金正恩(ジョンウン)、金(キム)3代王朝の維持」を首脳会談開催の前提条件に、朝鮮半島の非核化に応じる用意があるというポーズを示したのは、ひとまずうなづけます。

ただ、交渉の先行きについては、北はこれ見よがしの実験を中止すだけで、すでに保有している核は放棄しないどころか、秘かにプルトニュウムを増産したり、秘密裡に地下で核実験をするのではないかという指摘があって、「相互不信の溝」がたいへん深く、楽観できる情況にありません。一方は核こそ生きのびる唯一の手段と考えていますから、容易に手放すはずがありません。もう一方はそれだけは許さない。今回は騙されないと警戒していますから、足して2で割るのは極めて難しい状況にあります。
特に厄介なのは、「朝鮮半島非核化」という言葉の定義です。
トランプ政権はもとより、私たち日本は、「朝鮮半島の非核化」とは、北朝鮮が核・ミサイルを当面凍結し、期限を区切って放棄することと理解しています。
ところが、金正恩は「朝鮮半島全域を非核化することだ」と主張する腹づもりではないかと推測されています。つまり、自分たちが裸にな前に、在韓米軍も核とミサイルを放棄するのは当然である。朝鮮半島の危険が無くなれば、米軍は韓国に駐在する意義がなくなるのだから撤退すべきだ。それを見届けない限り非核化には応じられないという論理の組み立てをする懸念があります。北朝鮮が、先に全ての核を放棄し、核の製造施設を廃棄しない限り、わたしたちは承服できません。アメリカ以上に日本にとっては死活問題だからです。見せかけかもしれない北朝鮮の言い分を真に受けて日本を見殺しにするような選択をアメリカに許すわけにはまいりません。卵が先か、鶏が先は、こりゃ誠に厄介です。話し合いがこじれて、真っ向から対立したら、何が起きるか予測困難な事態になり、今より悪化します。

☆このように、米朝交渉に根本的な食い違いが見えて、話し合いがこじれる可能性が出てくると、極東における核の分散という深刻な問題が惹起されます。これは、東アジアの平和と繁栄にとって最大の脅威となります。
金正恩は、今回の宣言の中で「核の不拡散」を約束していますが、これから始まる一連の交渉が長引いて、北朝鮮に非核化を承服させられそうにないという情況になった場合、韓国国内で台頭している核武装論がさらに助長される懸念があります。韓国ではすでに核武装すべきだが60%を占めており、極めて敏感に反応しています。それに刺激されて、台湾でも核武装を検討するという機運が出てくる懸念があります。日本では、幸い、作らず、持たず、持ち込ませずの非核3原則を変更すべきだという議論は起きていませんが、「北」からのミサイルが日本列島の上空をたびたび通過する事態が続くと、放置できないという世論が台頭しかねません。極東における核の分散は、「核の均衡」を崩して、東アジア情勢を一気に不安定にします。
この情況だけは回避させなければなりません。

従って、事態を解決するポイントは、北朝鮮が求めている「金正恩体制の維持」を保障する確かな担保です。「北」がアメリカは信頼できないと主張した場合、「北」の安全を保障できる第三勢力は中国しかありません。
中国は、北朝鮮を国家として存続させたいと考えています。そして、朝鮮半島の非核化には賛成の立場を表明していますから、中国こそ
うってつけの存在です。中国が「朝鮮半島の非核化」とは北朝鮮の核の放棄というアメリカ、日本と同じ立場を鮮明にしてくれると、双方の条件を満たす仲介役となって問題解決へ一歩近づきます。
3月下旬、25日~28日、金正恩本人が北京を訪れ、韓国、アメリカとの首脳会談の趣旨を報告すると共にアメリカとの交渉に臨み、いわば「後ろ盾」になってほしいと習近平国家主席に要請した点に、この間の事情がうかがえます。
そして、中国がその重要な役割を果たすためには、北朝鮮との信頼関係の再構築と共にアメリカ、日本、韓国との安全保障政策上の共通認識を深める必要があります。

その方策として、世界のGDP1位、2位、3位のアメリカ、中国、日本、3国相互間の安保体制を構築することが何より重要です。
そんなことができるわけがないと言わずに、まず安保政策上の相互の信頼関係を醸成する努力をしてほしいと念願します。
来月(5月)9日、東京で行われる安倍首相と李克強首相の首脳会談で信頼醸成をはぐくむ合意が成立すると聞いています。
両国の艦艇や航空機による偶発的な軍事衝突を避けるため、「海空連絡メカニズム」の運用を開始することになるものとみられます。これが実現しますと、海上自衛隊、航空自衛隊と人民解放軍の海軍、空軍との間に専用連絡回線、ホットラインが設置されます。

このように信頼が深まれば、次に「協商関係」の確立に発展させることができます。「協商」という概念は、なんらかの軍事的な偶発事故が発生した場合、直ちに双方で協議して、合意に基づいて事態に対処することを意味します。軍事的援助義務を伴わないという点では、日米安保条約のような軍事同盟とは異なりますが、協商関係の絆が強まれば、その中から同盟関係が生れる素地が出てくるにちがいありません。
ですから、私は、日本、中国、アメリカ3国の二等辺三角形を、日米安保条約が存在する日米同盟を底辺に、日中協商、中米協商によって構築することを提唱しています。そして、いずれ二等辺三角形が正三角形の同盟関係に発展して、アジア・太平洋地域の平和と安全を確かなものにする軍事安全保障の要となることを期待しています。
そこで、二等辺三角形構築の最大の障害になっている南シナ海をめぐる米中の軍事的睨み合いに触れておきます。
中国は南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)周辺の岩礁を埋め立てて人工島を造成し、軍事基地にして地対空ミサイルを装備しています。さらに西沙諸島(パラセル諸島)にも人工島を造ってミサイルを配備しています。
こうした中国の南シナ海の軍事拠点化にアメリカは神経を尖らせており、戦艦を派遣して中国をけん制しています。
確かに南シナ海と西太平洋を繋ぐ地点に造られたミサイルを装備した軍事基地はアジア各国の脅威ですが、冷静に考えてみると、米軍は東シナ海を望む沖縄、太平洋のグアム島、インド洋のディゴガルシア島に圧倒的な物量を誇る空軍を中心に海兵隊も駐留する巨大な基地を所有して、地球を北から南までタテの線で抑えています。ですから、南シナ海の中国の基地は米軍独占軍事ラインに打ち込まれたくさびの構図です。まあ、いわばどっちもどっちです。
そこで、米中両大国が、軍事力とは戦争をするためのものではなくて、戦争をさせないためのものという理解の上に立って、相手の実力を認め合い、お互いに安全を保障し合う関係を築けば、二等辺三角形の構築は不可能ではありません。それがアジア・太平洋地域の平和と繁栄を担保する大国の責任だと考えます。

◎米朝首脳会談に画期的成果は期待薄

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◎米朝首脳会談に画期的成果は期待薄
「核保有」の是非で行き詰まった
 米朝首脳会談へ向けて米国内で様々な観測が出始めたが、その多くが悲観的である。米大統領ドナルド・トランプとの首脳会談を控えて、北朝鮮朝鮮労働党委員長の金正恩が出した観測気球のごとき提案は、従来の譲歩をかき集めたものに過ぎない。その中身は、核実験とミサイル実験の凍結や、南北和平協定の締結後も在韓米軍を認めるといった内容だ。北による非核化の声明と言っても、これが実施に移されるかどうかは過去における欺瞞の構図が物語る話しであり、極めて困難だ。従って首脳会談は長年の米朝対立に終止符を打つというような画期的なものではなく、基本的な対立の構図を改めて確認することになりかねない要素が山積している。
 まず、北朝鮮と米国の首脳らによる発言から明確になって来た両国のポジションを分析する。米国の目標は北朝鮮の核兵器製造計画を完全に止め、既に製造した核兵器の破壊を求めるところにある。おそらくトランプは金正恩に対し①核爆弾とミサイル製造の中止と実験の停止②既にある核兵器の解体③南北平和協定締結後も在韓米軍を認める④核実験場の閉鎖ーなどを要求するだろう。これらの要求を受け入れない限り、経済制裁の解除はないと迫るものとみられる。
 これに対して金正恩は「核実験と大陸間弾道弾の発射実験を中止し、核実験場も閉鎖する。今後は経済発展に全力を傾注する」との対応を表明している。核実験場の閉鎖については、過去6回の実験で山崩れを起こしている上に、坑道も崩れて使い物にならないから無意味だ。その意図を分析すれば金正恩は、“現状のままでの核開発計画の凍結” で国際社会からの経済支援を受けたいという意図がありありと見受けられる。これは父の正日の意図とピタリと符合する。金正恩も金正日のように、体制の生き残りを核兵器開発に賭けてきたのだ。もちろん見返りを期待しての核実験停止は、父の方式の踏襲である。米国と北朝鮮の思惑はここで鋭く対峙しているのだ。要するに金正恩は現状のままで核開発プログラムを凍結し、その見返りに国際社会からの経済制裁を直ちに緩和させることを意図しているのだ。従って、トランプの「北朝鮮の非核化を見たい。非核化とは核兵器の撤去だ」という核兵器プログラムの完全な破棄を求める要求とは似ても似つかないものなのだ。トランプは「日本と世界にとって前向きな結果が出る」としているが、問題は「前向き」の度合いだ。
 それにしても正日と比べて正恩のやり口はすさまじく派手だ。金正恩体制のこれまでの約4年8カ月で、発射された弾道ミサイルは失敗を含め30発を超えた。金正日体制の約18年間では16発の弾道ミサイルが発射されたとみられる。金正恩体制はすでに、倍以上の弾道ミサイルを発射した計算となる。今や自分はもちろん金一族の体制を守る手段として核とミサイルのノウハウが使われているのが現実だ。核とミサイルは金王朝の維持と発展に直結しているのだ。金正恩は核を持たないイラクのサダム・フセインやリビアのカダフィに何が起きたかを知っているからこそ、用心に用心を重ねて二の舞いを食らうのは避けようとしているのだ。金正恩にしてみれば「核保有国」として世界が認めることを基本戦略に据えているのだ。
  これは逆に見れば国際社会による経済制裁が極めて有効に働き始めたことを意味する。金正恩の本音は“経済救済”なのであろう。繰り返すが、これまでがそうであったように金正恩の提案をそのまま受け入れれば、一時的には核拡散のリスクが低減し軍事オプションの可能性が低くなるわけだが、金が微笑外交の影に隠れて、核兵器の「一剣を磨き続ける」ことは火を見るより明らかだ。
 米国を初めとする国際社会が求められている選択は「北が核プログラムを完全に破棄するか」それとも「核能力の温存を甘んじて容認するか」であろう。その中間の「あいまいのまま推移」もあり得るが、北が何もしないまま「あいまいのまま推移」では全く交渉の意味がない。トランプには少なくとも廃棄に向けての何らかのとっかかりを求められているのだ。トランプは自覚しなければならない。 
  トランプの脳裏には時々「軍事行動」がかすめているかも知れない。しかし、韓国には米兵2万8500人が駐留しているほか、常に20万人を超える米民間人が滞在している。朝鮮戦争が再発すれば、過去の例から見てもトータルで数百万人の人的な犠牲が必要となる。戦争による物的・人的被害は計り知れず、軍事行動のオプションはまず考えられない愚挙である。隘路を探し出すしかないのだ。隘路とは交渉の継続であるかも知れない。もっとも対話の継続は、その間軍事オプションが行われないことを意味するから、極東情勢には1歩前進だろう。
北朝鮮との長期にわたる難しい交渉のが始まることになるのだろう。


◎俳談
 新聞俳句は「敵を知れば百戦危うからず」であり、応募する側も選句の実情をよく知っておく必要がある。とりわけ、選者の研究を十分にして、効率的な投句をしなければ俳句の泉が枯渇する。
 ところで、最近選句に関して面白い話を聞いた。ある編集者が「先生、一日5千句もの俳句の中からどうして佳句を選べるのですか」と聞くと、老大家曰く「いやね、読み流しているように見えるだろうが、優秀な句は自ずと立ってくるのだよ」。佳い句は葉書が立ってくるというのである。いささか神懸かり的であるが、一面を衝いているかもしれない。
 朝日俳壇で週に5千句から7千句。NHKも同数。そのなかからどうして選ぶのか疑問が生ずるのは当然。垣間見たところによると選者は稲畑汀子も金子兜太も選句にかける時間は一句0.5秒から0.7秒。要するにぱらぱら見ている感じである。その中から佳句秀句が琴線に触れるわけだから凄い能力だ。文字としてみるのでなく絵画を見るように見ているという心理学者の分析もある。
  鷹羽狩行の場合は月平均3万句ほどの選句数。一日1000句に相当する。鷹羽は「もう慣れっこで、呼吸しているのと同じ」と述べている。新幹線は”走る書斎”、飛行機は”空飛ぶ書斎”だそうだ。
選句地獄のただなかに懐手 鷹羽狩行      
と余裕綽々だ。